「お金とは何か?」
この問いに答えられないまま大人になってしまった人へ。
著 渡邊賢太郎
リーマン・ショック後、大手証券会社を退職し、世界中をバックパッカーで旅した著者がお金について学び感じたこと。
証券マンとして働いていた著者は、顧客の利益のために株式投資の最前線で働いていた。顧客の中にはかなりのお金持ちもいた。しかし、お金持ちイコール幸せな人、ではないらしい。
リーマン・ショックが起こったのち、大勢の資産が失われたのはなぜか。真面目に長時間労働に従事しているのにお金持ちになれないのはなぜか、そんなにしてまでお金を稼いでいるのに必ずしも幸せになれないのはなぜか、世界中を旅しながら著者のお金に対する学びが深まっていく。
お金の基礎知識を改めて教えてもらう。
お金の起源から始まり通貨の発達、銀行の歴史、利子が生まれた理由など、お金の基礎知識をわかりやすく解説。必要なものを手に入れるために、はじめは物々交換から始まった。これは二者間の取引だ。より多くのモノと人の間の取引を実現するために、それらに関与する者同士の信用の上にお金が生み出された。お金が人間同士の思念の上に成り立っていることがよくわかる。
以前、お金がある、と言うことは可能性があるということだ、という記述を読んだことがある。1000円あれば1000円の価格がついているいろいろなモノを買うことができる。勝った瞬間に具体的なモノやコトに変わり、それ以上でもそれ以下でもなくなる。1000円が10倍になれば10倍の可能性があるということか。
国ごとに違うお金へのスタンス
どんな国へ行ってもお金が必要だ。しかしそんなこととは別に見ず知らずの外国人を快くもてなしてくれる人々がいる一方、平気で旅行者をだまし、お金を巻き上げようとする人々もいる。気持ちよく施設の案内をしてくれたと思いきや、案内料を請求してきたり、寄付を要求されたり。挙句の果てはピストル強盗にまで遭遇する。
そして著者は、強盗達に身ぐるみはがれた後、無償で労ってくれ、お金まで与えてくれる人にも出会う。
通りすがりの人から何でもいいから奪おうする者、見ず知らずなのに、与えようとする者、さまざまな人に著者は出会う。そして最後に著者はお金とは、信頼のあかしなのだ、という結論に達する。
つながりキャピタリズム
年金2000万円不足問題が取り沙汰された。そして、コロナウイルスが蔓延しみんな右往左往している。世界は一瞬で変わってしまう。2000万円があればもう安心、というわけでもないと思う。けれどもなければ不安だろう。
不安はいつでもどこでもある。予測のつかない世界が自分たちの住む世界。だから今を生きるしかない。ネットで物理的距離を超えて人とつながれる世界になったのは確か。ネット上でのやり取りでも垣間見れる人となりで、見ず知らずの人でも遠い異国でつながりを見いだせる。これを著者はつながりキャピタリズムと言う。
あなたのしたいことは何か。どうあることが幸せなのか。それは必ずしも銀行口座の残高が高いことでも保有株の株価が高くなることでもないはず。お金はしたいこと、実現したい世界への道具でしかない。
なるほど、とは思うけど…
基礎知識をわかりやすく解説してくれ、各国のトピックスを上手にお金と絡めて書かれている。とても読みやすい。
新しいお金の世界が始まっていることも分かった。今まで全く分からなかったリーマン・ショックがどういうものであったのかも、少しわかった。
翻って、題名にあるように、本当に日本人は世界一お金のことに無知なのだろうか?その部分はよく分からない。少なくとも自分は見ず知らずの人をネットの情報だけで判断することはできないし、それに頼ろうとも思わない。インターネットやSNSを使いこなせたらそういうこともできるのかなあ。それに、日本人の長時間労働がお金持ちへの道にならないことへの答えはこの本にないように思う。
お金、というものを通してみるだけでも各国のイメージが湧いてくる。もちろん、著者が遭遇した物事だけで判断してはいけないだろうけど。でも端的にその国の雰囲気を表しているのではないだろうか。
お金は使えば減る、くらいのイメージしかなかったけど、最近の決済システムの多様化とか、クラウド・ファンディングによる銀行を介さない資金集めとか、何が始まっているのか垣間見えるような気がした一冊だった。