小川洋子

11編の短編集

他の小川洋子の作品に登場する様々なモチーフが少し形を変えて描かれている。それぞれのお話はオリジナルなストーリーだが、愛や欲望が高じて狂気の世界に足を踏み入れてしまい引き返せない人々の話としては共通している。

小川洋子の世界は絵面にしにくいのが多い。例えば「涙売り」。身体を楽器にして演奏する人々は、絵にすると滑稽なだけだ。涙売りの最後も凄惨で怖ろしい。初めは控えめに、だが気が付くとどんどんエスカレートしてとんでもない世界に引きずり込まれる、そういうお話の連続。ヘンな設定だなあ、よくわからないなあ、と思いながら読み進むと最後にのめり込んでいる自分に気が付く。または、普通の人々の暮らしが描かれていると思っていたのにいつの間にか時も空間も超えてその人たちの狂気の世界にいることに気が付き、びっくりする。しかも、いつでも小川洋子の語り口は控えめで慎ましい。無理やり押し付けるようなことは決してない。あら、あなたもそこにいたんですね、と言うような。

小川洋子の著作をだいぶ読んできたと思う。同じ年代なので、はじめはどんな女性なんだろう、写真で見る限りは文体と同じように控えめで慎ましい女性のようだし、ラジオで聞くお話も分かりやすい言葉で素晴らしい女性なんだろうなあ、と想像する。

けれども、特に短編に描かれる世界を読むと、実際に知り合いたくない女性の筆頭に上げたくなる。もちろん、そんなチャンスはないだろうけど。そっと手を取られ、気が付かないうちにとんでもない世界に連れていかれそうな恐怖を感じる。もっと怖いのは、連れて行って欲しい、と思いそうな気がすることだ。

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