六月の雪
夫が図書館で借りて、すぐ読み終わったので私も。彼はあんまりおもしろくなかったようだ。ところが、私は一気にのめりこんでしまって、夫とは正反対の理由で速攻で読み終わった。 今までうっすらと日本もかつてはアジアの各地に植民地を持っていたことは知ってたが、具体的には知ろうともしなかったし、歴史の授業で教えられたこともない。教育って、本当に誰かの恣意的な意図のもとに行われるものだ。この本で台湾と日本の関係性を少し知ることになった。 ただ単に台湾の歴史をつづるだけではないのが乃南アサ。そこに母と娘のどうしようもなくドロドロした怨念を絡めるのがさすが。 日本と台湾で、何組もの母と娘が登場する。どういうわけか何人かいる子供の中で一人の娘は母から嫌われ、いじめられる。ひどいことだ、どうしてだ、とほとんどの人は思うだろう。または子育てって、大変だから、長女ってそんなものよね、と思うかも。そういう風に片付けられないくらい傷つけられて大人になってしまう娘。そして母の方には理不尽な扱いを行った自覚というものがほとんどない。 親になったからって、子供を無条件に愛せるか。答えはノーだ。母が子供を愛するにはたくさんのおぜん立てが必要だ。私はそう思う。まずは母自身が安全に生きられていること。子供の父親との関係がいいこと。父親以外にも頼れる存在があること。要するに幸せな人じゃないと子供だろうが何だろうが人を愛することなんてできない。 人はやられたことはやり返す。チャンスがあればそうするものだ。やった相手にやればいいのだけど、往々にして力関係でそうもいかないことが多い。そうすると、やりやすい相手にやってしまうことになる。無力で無知な子供は格好の餌食だ。一見まともな人間もなんでも受け入れられる環境になると自身のエゴを出さずにいられなくなる。パワハラもセクハラも近ごろ流行りのあおり運転も根っこはみんな同じ気がする。 母親に虐待されてもまだ母に尽くそうとする台湾の女性。一見普通のお母さんを持っているのに、どんどん反抗的になり生活が荒れていく主人公の叔母。少し離れて自分自身を大切にしたら、と言いたくなる。 それがなかなかできないのが母の呪縛だ。「万引き家族」でも思ったけど、スムースに親離れできるかどうかでどんな親だったのかが問われるのではないか。 小説なので、どうも主人公に都合のいいことが起こりすぎるような気もするけど、全く興味のなかった台湾の歴史を知るきっかけになったし、母と娘の葛藤の物語としても大変面白く読めました。 追記。ヨーロッパの各国がやった植民地支配に比べるとずいぶん日本はいいように描いているけど、そこはどうだったんだろう。台湾の人々も、日本の後にやってきた中国があんまりひどいから比較の問題で日本がよく思えるだけじゃないか。今自分が暮らしているこの家を突然出ていかなければならなくなる状況なんて、想像することもできないけど、戦争って、そういうことかもしれない。日々の生活を壊されて自国の言葉も自由にしゃべれなくなるんて。もうアラフィフも超えてきたし、戦争なんて起きたら真っ先に死ぬ気がする。そうじゃなくても日本は災害が多いのに。無力な人間には平和が何より大事なんだ、と改めて思う読書体験だった。
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