人質の朗読会

小川洋子 著

異国の地でその国の紛争に巻き込まれ、人質となってしまった人々が語るそれぞれの思い出8編とその語りを録音していた政府軍側の兵士の語り1編。

今はもういない人々の声に耳を傾ける

事故や事件に巻き込まれて一度にたくさんの人が亡くなってしまうことがある。誰でも必ず死ぬとは言え、そんな事件が起きると心が動かされる。

ところが、そんな大事件が起こってもしばらくすると忘れてしまう。誰でも自分自身の生活で忙しい。特に国際的な紛争などは大部分の人にとってすぐには生活に影響しない。どこかで誰かがうまく収めてくれるのだろう、と思っている。

この物語の語り手たちは、数か月もの間人質となって廃屋に閉じ込められていた。その間、どのように過ごしていたのかは定かではないが、それぞれの思い出を文章にして、それを朗読しあうようになっていた。8人の人質たちの朗読と、彼らを救出しようとして、結局できなかった兵士の語り1編が収められている。

亡くなってしまった人の語りを後から聞く、ということが心に響く。静かに語られるそれぞれの思い出に胸を締め付けられるが、語りの最後にその人たちの簡単な説明が付記されている。感動は、むしろこの小さな一行にも満たない説明でピークとなる。

彼らの話は、過去の思い出だから、子供時代や人質になるだいぶ前の状況から、このテロに巻き込まれるまでにも人生の片鱗が垣間見られる。みんなこんなところで命を奪われるとは想像もしていなかったに違いない。

死を意識した人々の語り

異常な状況でいつ殺されるかわからないのに、これらの人々の語りは静かで優しい。聞き手も静かに耳を澄ましている様子が分かる。もうすぐ殺されるかもしれないのに、どうしてそんなに落ち着いているのだろう。語られる内容は子供時代のささやかな思い出だったり、文章にすれば1行で終わるような単純なできごとだ。けれども死を目の前にした本人には、たぶん人生でもっとも大切な記憶なのだろう。みんながそれをよくわかっていて、静かに耳を傾ける。

人生が終わることを意識して語る出来事とは、何だろう。自分自身は、もうこの世とお別れしないといけない、となって語るできごとって、何だろう。

何かの利益を得た、スポーツで優勝した、希望の大学に合格した、などのライフイベントでよく語られそうなできごとはここでは一つも登場しない。それでもひとつひとつの語りが深く印象付けられる。そして、最後に語り手のプロフィールを読み、感動はさらに増す。

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